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東京高等裁判所 昭和34年(ツ)26号 判決 1959年10月20日

事実

上告人(一審被告、二審控訴人、何れも敗訴)本間作次が昭和三十二年二月二十五日訴外高野邦平に宛て振り出した額面金十万円の約束手形を被上告人三和証券金融株式会社は裏書により譲り受けたので、被上告人は右手形を日本勧業銀行にまた同銀行は第四銀行に、それぞれ取立委任し、第四銀行は右手形を満期に支払場所に呈示して支払を求めたが、資金不足の理由でその支払を拒絶された。そこで被上告人は取立委任した右約束手形を取り戻し、現にその所持人である。よつて被上告人は上告人に対し右手形金十万円及びこれに対する年六分の割合による利息の支払を求めると主張した。

上告人はこれに対し、被上告人主張の約束手形の裏書の記載によると、訴外高野邦平が被上告人に裏書譲渡し、被上告人は訴外日本勧業銀行に裏書譲渡したものであつて、日本勧業銀行に対し被上告人が手形金の取立を委任したものでないことはその記載自体によつて明瞭なところであるから、本件手形の手形債権者は日本勧業銀行である筈で、同銀行の裏書譲渡によらなければ右手形の権利を取得し得ないことは論ずるまでもないことである。しかるに原審が、それを取立委任裏書であるとする被上告人の主張をたやすく認めてこれを認容したのは、事実を誤断し、法律の解釈を誤つたもので判決に影響を及ぼすこと明らかであるから破棄さるべきものである、と主張した。

理由

手形上の権利者が取立委任の目的を以て手形を第三者に裏書譲渡する場合にその目的を示すべき文言を手形上に記載することは必ずしも必要でなく、手形上の記載は単純なる譲渡裏書の文言であつても他の資料により当事者の意思が取立委任の目的にあるものと認め得る場合には、その裏書は取立委任裏書としての効力を有することに何等妨げないものと解するのが相当である。そして、取立委任の目的で裏書がなされた場合には、被裏書人は単に自己の名を以て手形上の権利を行使する権能を与えられたものに過ぎず手形上の権利は依然裏書人に存するものであるから、被裏書人による取立が不能の場合裏書人は被裏書人より当該手形を回収した上手形所持人として手形債務者に対し権利を行使することができるのであつて、この場合その裏書人が被裏書人より更めて手形の裏書譲渡を受けることを要しないものと解すべきである。甲第一号証たる本件約束手形によれば、被上告人より訴外日本勧業銀行に対する裏書には取立委任の目的であることを示すべき文言の記載のないことは所論のとおりであるけれども、原審は右甲号証の外当事者間に争いない事実とその他の証拠により被上告人より右銀行に対する裏書が取立委任の目的でなされた裏書であること及び右裏書後被上告人は本件約束手形の返還を受け現にその所持人である事実を確定したものであることは原判文上これを諒するに十分である。

してみると、被上告人が本件手形の適法な所持人として振出人である上告人に対し、その手形金の請求をなし得べきことは前段説明により自ら明らかであるから、所論は採用することができないとして本件上告はこれを棄却した。

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